「ヴィクトリア女王の金貨」と聞くと、ちょっとロマンチックな響きがありますよね。
僕自身、最初は「イギリスの古い金貨でしょ?カッコいいけど、よくわからん」くらいの認識でした(笑)
でも調べていくと、このコインが単なる「女王様の記念コイン」ではないことがわかってきたんです。ヤングヴィクトリア・ソブリン金貨は、大英帝国が世界の覇権を握った時代に発行され、金本位制の象徴として世界中で流通した「世界の基軸通貨」だったんですよね。
今回は、この歴史的なコインがどのような背景で生まれ、なぜ130年以上経った今でもコレクターや投資家から人気があるのかを、トレーダー視点でお話しします。

ウィリアム・ワイオンによる「ヤングヘッド」肖像
※画像:ルーラーズコインス所有品
目次
ヴィクトリア女王とは何者だったのか
まず、コインの主役であるヴィクトリア女王について簡単に触れておきます。
ヴィクトリアは1819年にケント公エドワードの娘として生まれ、1837年にわずか18歳で即位しました。そして1901年に亡くなるまで、実に63年7ヶ月という当時最長の在位期間を記録します。
この時代は「ヴィクトリア朝」と呼ばれ、イギリスが世界史上最大の帝国へと成長した時期です。「太陽の沈まない帝国」──つまり世界のどこかで常に大英帝国領に太陽が当たっている状態。地球上の人口の約4分の1、1000万平方マイル以上の領土を支配していたわけです。
彼女の時代は産業革命の全盛期でもあり、鉄道、蒸気船、電信といったテクノロジーが急速に発展。イギリスは「世界の工場」として君臨し、その経済力を背景に軍事力も圧倒的でした。
イギリス金本位制の確立──信用の源泉
ヤングヴィクトリア・ソブリン金貨を語る上で避けて通れないのが、金本位制です。
イギリスは1821年に世界で初めて公式に金本位制を採用しました。これは「うちの通貨の価値は、金でちゃんと保証しますよ」という約束です。
これがどれほど画期的だったか。
当時の多くの国は、政府が勝手に紙幣を刷りまくってインフレを起こしたり、銀と金を両方使う「複本位制」で相場が安定しなかったりと混乱していました。フランス革命期のアッシニア紙幣なんかがいい例ですね。
イギリスは「ポンド=金」と固定することで、通貨の信用を確立。その結果、ポンド・スターリングは19世紀から20世紀初頭まで「世界の基軸通貨」として機能しました。
ソブリン金貨は、その金本位制の「顔」だったわけです。
ソブリン金貨の復活──1817年の大改鋳
ソブリン金貨の歴史を遡ると、元々は1489年にヘンリー7世が導入したコインでした。しかし、ジェームズ1世の時代以降、約200年間姿を消していたんですよね。
転機となったのが1816年の大改鋳(Great Recoinage)です。
ナポレオン戦争後、イギリス政府は通貨制度の安定化を図り、従来の21シリングのギニー金貨に代わって、20シリング(1ポンド)のソブリン金貨を導入しました。
1817年に発行された最初のソブリン金貨には、イタリア人彫刻家ベネデット・ピストルッチがデザインした「セントジョージ竜退治」が刻まれています。この図柄は現代のソブリン金貨にも使われている、まさにイギリス金貨の象徴です。
ヤングヴィクトリア・ソブリン金貨の誕生
さて、本題のヤングヴィクトリア・ソブリン金貨です。
ヴィクトリア女王が即位した翌年、1838年から発行が開始されました。「ヤングヘッド(Young Head)」と呼ばれる若き女王の肖像は、王立造幣局の主任彫刻師ウィリアム・ワイオンがデザインしたものです。
髪を後ろでまとめた姿から「バンヘッド(お団子頭)」とも呼ばれています。ヴィクトリア女王自身、このデザインをとても気に入っていたそうです。
基本スペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 額面 | 1ソブリン(1ポンド) |
| 素材 | 金(純度91.67%/22カラット) |
| 重量 | 7.98g |
| 純金含有量 | 約7.32g(0.2354トロイオンス) |
| 直径 | 22.05mm |
| 発行期間 | 1838年〜1887年 |
裏面デザインの変遷
ヤングヴィクトリア・ソブリンには、大きく分けて2種類の裏面デザインがあります。
1. シールド裏面(1838年〜1887年)
- ジャン・バティスト・メルレンがデザイン
- 王冠を戴いた盾に王室紋章
- 月桂樹のリースで囲まれ、下部にバラ(イングランド)、アザミ(スコットランド)、シャムロック(アイルランド)

ジャン・バティスト・メルレンによるデザイン
※画像:ルーラーズコインス所有品
2. セントジョージ竜退治(1871年〜1887年)
- ベネデット・ピストルッチのオリジナルデザイン
- 1871年から復活し、シールド裏面と並行して発行

ベネデット・ピストルッチによる象徴的なデザイン
※画像提供:Numiscorner
1887年は移行年で、ヤングヘッドとジュビリーヘッド(在位50周年記念デザイン)の両方が発行されました。
なぜヤングヴィクトリア・ソブリンなのか?──希少性と流動性の視点
正直に言うと、ソブリン金貨で一番流通量が多いのはエリザベス2世の現行ソブリンです。地金価格に近い価格で買えることも多い。
じゃあなぜヤングヴィクトリアに注目するのか?
これは完全に僕の商売っ気というか役得なんですが(笑)、ヤングヴィクトリアの方が歴史的価値が高く、コレクターズアイテムとしてのプレミアムが付きやすいんですよね。
希少年号に注意
特に以下の年号は発行枚数が少なく、希少価値があります:
- 1839年: 発行枚数約50万枚(1838年の約270万枚と比較して激減)
- 1841年: シールド裏面のみ発行、コレクター人気高い
- 1855年シドニー発行: オーストラリア初のソブリン金貨、独自デザイン
ただし、ここで大事なのは「希少だから儲かる」ではないってことです。
希少なコインは買い手を見つけるのに時間がかかることもある。流動性が低いコインほど「売りたいときに売れない」というリスクがあります。
ミントマークの重要性──どこで造られたか
ヤングヴィクトリア・ソブリンは、複数の造幣局で発行されました。ミントマークを確認することで、どこで造られたかがわかります。
| ミントマーク | 造幣局 | 備考 |
|---|---|---|
| なし | ロンドン(タワーヒル) | 基本的にロンドン発行はマークなし |
| S | シドニー(オーストラリア) | 1855年から発行開始 |
| M | メルボルン(オーストラリア) | 1872年から発行開始 |
オーストラリア造幣局発行のソブリンは、本国イギリス発行とは異なる希少性を持つことがあります。特に初期のシドニー発行は、独自のデザインが使われており、コレクター価値が高いです。
ヤングヴィクトリア・ソブリンの歴史的意義
このコインの本当のすごさは、「50年間も同じデザインで発行され続けた」ということです。
1838年から1887年まで、約50年間。その間にイギリスはクリミア戦争、インド大反乱、普仏戦争など激動の時代を経験しています。帝国の版図は広がり続け、植民地からの富がロンドンに流れ込んだ。
でもソブリン金貨のスペックは変わらなかった。
7.98グラム、22カラット金。この一貫性こそが、世界中でソブリン金貨が「信用できる通貨」として受け入れられた理由です。
1880年から1914年は古典的金本位制の時代と呼ばれ、世界中の主要国がイギリスに倣って金本位制を採用しました。ソブリン金貨は、その国際金融システムの要だったわけです。
現代における価値──税制メリットと投資
イギリスにおいて、ソブリン金貨には興味深い税制上のメリットがあります。
- VAT(付加価値税)免除: 投資用地金として扱われるため
- キャピタルゲイン税免除: イギリス法定通貨のため
これはイギリス居住者にとって大きなメリットですね。日本では事情が異なりますが、「法定通貨としての地位がある金貨」という点は、流動性の観点から重要です。
まとめ:ヤングヴィクトリア・ソブリンから学べること
ヤングヴィクトリア・ソブリン金貨は、単なる「昔のお金」ではありません。
- 大英帝国の全盛期を象徴する歴史的コイン
- 金本位制の「顔」として世界中で流通した基軸通貨
- 50年間変わらないスペックが生んだ「信用」
- 希少年号やミントマークによるコレクター価値
「コインを買う」ということは、その裏にある歴史や経済を理解することでもあります。逆に言えば、歴史を知らずに「なんかカッコいいから」で買うと、相場の養分になりかねない。これはどんな投資でも同じですよね。
最終的にどうするかはお客様の判断です。僕はあくまで「こういう見方もありますよ」とお伝えするだけ。
もしヤングヴィクトリア・ソブリンについて詳しく聞きたい方がいれば、お気軽にご相談ください。実物を見ながらお話しできると、また違った発見があると思います。
参考資料・情報ソース
本記事の情報は以下のソースに基づいています:
- The Royal Mint(イギリス王立造幣局公式サイト): ソブリン金貨の歴史とスペック
- Britannica Encyclopedia: ヴィクトリア女王の治世と大英帝国
- Wikipedia - Gold Standard: 金本位制の歴史
- Wikipedia - Sovereign (British coin): ソブリン金貨の詳細
※本記事で使用している画像はWikimedia Commonsのパブリックドメイン画像です。
※本記事は情報提供を目的としており、特定のコインの購入を推奨するものではありません。投資判断は必ずご自身の責任でお願いいたします。